2011/03/19

(No.1352): 床屋起結


昭和50年代で時間が止まっている
くだんの床屋を訪なう。

震災直後なので、そんな話題に
波及するだろうという予想は
完全に裏切られた。
最後までほぼ無言だった。
やはりこの床屋正解だ。


客は筆者のみ。
席に着くと、今日はどうしますか
と聞かれたので、
全体的に短く、前髪ももうバサっと
切って下さいと応えながら
鏡に映った店主を盗み見ると
半笑いであった。
いいぞ。

終始無言。
テレビはNHKが流され
枝野官房長官の会見が生放送されていた。

それを聞きつつ一通り髪切りが終了し、洗髪。
いつものカビ臭いビニールシートを
首から巻かれ、うーんこの臭さ、いいぞと
ほくそ笑んでいるとシャンプーを
ビュッビュッビュッビュッビュッビュッ
と容赦なく降りかけて来た。

左目に直撃。
あなやッ!と目をつぶる。

尋常ではないシャンプーの量で
ダラダラと顔にまで流れてきて
右目も塞がってしまった。

洗髪台で流してもらう。
あなやッ!、今度はお湯が熱いッ!
おいッ!熱いッ!

もう踏んだり蹴ったり的洗髪タイムが
終了したが、本当の試練はこれからだった。

雑駁な顔拭きのあと、恐る恐る目を
開けようとしたら、
ビョベーッと心のなかで絶叫した。
目が痛くて開けられないのだ。
シャンプーがしっかりと溜まっていた。
しかも両目だ、両目。

この仕打に思わず、ニヤついてしまった。

まずい、また笑ってしまいそうだ。
このあと、顔がむき出しになる
髭剃りだというのに。


しかしなんとか、髭剃りは事なきを得た。
洗髪からずっと目を閉じたままだ。
ひげ剃り後、肩もみなどを経て、
髪を乾かす段になり、ドライヤーで髪を
乾かしつつセットしている。

なんか油つけますか
と聞かれたので、何もつけなくていいです
と応えようとした。
しかし、目をつぶったまま言うのも
気まずそうなので
意を決してそっと目を開けてみた。

まだちょっぴりしみたが、
どうやら峠は越えたようだ。
なんとか、普通に目が開けられた。


刹那、眼前に飛び込んできたのは
刑事コロンボ「黒のエチュード」で
犯人役の男優の髪型よろしく、
前髪の無理矢理七三分け的な処理の
筆者だった。

ンクフッッ。

まずい今回も笑ってしまった。

ごまかそうと、ズボンポケットに入れた
iPhoneを出そうというジェスチャーを
したら、店主の突き出た腹にドスッと
肘を打ち付けてしまった。

慌てて
「おあふ、すいません」
と訳の分からない擬音を混ぜて筆者が謝ると


店主は
「なふに」
というどこの言語かわからない言葉で返した。


いいぞ、この床屋。
また来よう。

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