2008/09/08

(No.559): 散発の散髪の噺


髪を切りに床屋へ赴く。
その床屋は筆者は一見の客。
昭和に残された塩梅の店。
椅子は3つ。
おばさんが一人で営業。
もちろん、予約なんぞ必要なし。

先客あり。
老人。男性。
店のおばさんの声が馬鹿でかい。
客の老人の声はしょぼしょぼ。
無口。
店のおばさんは饒舌。

「外環を通ったらわりと近いのよ」
「次男坊に高いところの物、取ってもらう」
「蛍光灯の取替えなんかもうできやしないよウシャシャシャ」
「水周りなんか高くって直せないわッ」

世間話。
おばさん大声。
客は無口。
「あーそう、ふんふん」と相槌のみ。


おまたせッの声で筆者の番になる。
「ツーブロックでお願いします」
「長さはどうします?」
「あ、あのツーブロックわかります?」
「わかりますよ、だから中の長さはどうします」
「あうう、短くお願いします」
「円形脱毛症がここと、ここにあります」
「ふーん、あ、だから段カットにするのね」
「まぁ、そうっすね」

一見の客には流石に無口になった。
ラジオもつけずに無音の中、
ひたすらにカシャカシャとハサミの音だけが響く。

突然
「あらーとれちゃったよ」
「!?」
「これ、ほら、ネジが。もうダメねぇ」

と、ハサミを見せられる。
ふと、周りを見てみると
ガムテで補修してあるハサミもあるようだ。


どうやら経営はカツカツらしい。
備品はどれも補修のあとがある。
今座っているこの椅子もヨレヨレである。

洗髪も終わり、最後の仕上げをやってもらっている時
常連さんと思われる男性が来店。
同様に老人。

「あら、アキちゃんは連れてきてないの今日」
「あ、いないよ」
「あら、そう」
「ご主人どうよ、その後、入院したの?」
「それが、もう入院も断ったのよ」
「なんで」
「もう、最後は家でって」
「ほうそうかい、そりゃたいへんだな」
「入ったってもうだめだからね」

そう言うおばさんが気丈に見えるものの
よれよれの備品がなんとも痛ましく
また訪れてみようかとも思った。

しかし、やはりこの手の床屋での
ツーブロックはどうも塩梅がよくない。
最高だ。







0 件のコメント:

コメントを投稿